2024-09-21
輝かしい時間
たまに都心の方の飲食店で演奏していて、そこはグランドピアノに沿うようにカウンターがあるので近くにお客さんが座ると会話が聞こえてきてしまう。どうもアプリで知り合って初めて会うらしきアベックがよくいらっしゃる。
「私こういうところ来るの初めてで〜」
なんて会話が聞こえる。大学生ないし20代前半くらいの社会人だろうか。
趣味の話やらなんやらでひとしきり盛り上がったあと、女性の方が聞きたいことリストを作っていたようで一つずつ質問を消化している。
「もう全部聞いた?」
「えっと……SNSはやってないと言ってたけど電車乗ってるときとかはどうやって過ごしてるの?」
なんと輝かしい時間だろう。
若者よ、大いに青春を謳歌したまえ。そう心の中で願い、いつも以上に甘く和音を連ねる。
しかし次の瞬間、僕の指は転ぶことになる。
「私、平成元年生まれで〜」
年上じゃあないか。
みずみずしく、輝かしく見えていたそれは、どうやら30代後半同士の大人の恋愛模様だったようだ。
ということは、だ。
僕にだってこの先そんな時間が訪れうるということではなかろうか。
前向きに、快活に、スイングしようではないか。
それはそうと、僕はもっと演奏に集中しなければならない。
関連記事